イメージでは森林面積が減少しているという感じですが、実際に増えている場所もありますもんね
森林について扱う際に使いたいネタです
GFB@MC_sashiba
ツイッターでもしばしば話題になる「今の時代の方が緑は多いよ」「昔の方が緑は少なかったよ」という話。これも合ってる部分と合っていない部分があるのでちょっと整理させてください。森林蓄積と森林面積の話です。
2022/11/05 21:34:11
GFB@MC_sashiba
これは平成25年度の森林・林業白書。グラフにあるように、森林蓄積は右肩上がりなのに対して、森林蓄積は横ばい。つまり「緑が増えている」。これは確かに間違いない。景観の研究からもそれが裏付けられている。昔の山ははげ山ばかり。山野の資源… https://t.co/sqXeL0kcTa
2022/11/05 21:37:07
GFB@MC_sashiba
私が住んでいる関東の平野部でも雑木林がもりもり大きくなっている。ちょっと怖いくらい大きくて暗い。でも一方で素朴な疑問。例えば多摩ニュータウン。あそこはもともと多摩丘陵の雑木林じゃなかった?緑は減ってない?
2022/11/05 21:39:13
GFB@MC_sashiba
実はこれ、もう決定打といえる論考がある。またちょっと長い引用になるけど表現がうまいのでそのまま引かせてください。『人と森の環境学』(東京大学出版会、2004年)の「第1章 森の現在と過去」「1-2 日本の森は減っているか 明治以降の森林面積の推移」から。
2022/11/05 21:42:59
GFB@MC_sashiba
この研究でも「森林面積が国土の3分の2でほぼ変わらない」ことをおさえた上で、国土数値情報のデータから内容の変化について1900年、1940年、1985年を比較し、
2022/11/05 21:47:44
「①国土を傾斜によって5段階に区分して集計すると、一番緩い傾斜区分… https://t.co/uFd60lyndP
GFB@MC_sashiba
②傾斜による区分の残りの4段階(いずれも傾斜地)では、都市化、農地の増加はほとんどみられず、平坦地における森林の減少とほぼ等しい森林面積の増加が、これらの区分でみられる。
2022/11/05 21:49:17
GFB@MC_sashiba
③傾斜地での森林面積が増加に対応して、「荒地」と区分されていた面積が減少している。
2022/11/05 21:51:35
以上より、平坦地(平野部)で都市が農地に広がった分、森林が農地化されるという、玉突き状の土地利用変化が着実に進む一方で、1900年時点には広く存在していた荒地が森林化して、
GFB@MC_sashiba
この100年間ほぼ変動のない森林面積が保たれていたと説明できる。森林面積はほとんど変わっていないが、そのうち約1割は『場所が変わっていた』(原文傍点)のである」
2022/11/05 21:53:28
ここマジで重要。テストに出そう。そうしよう。
GFB@MC_sashiba
こうも言っている。
2022/11/05 21:55:45
「しかし、この結果は、日本の森林について、土地利用が安定的で少ないために森林面積が一定だったのではなく、土地利用のダイナミックな変化のなかで、傾斜地における「荒地」の森林化に伴って『結果的に』森林面積がほぼ一定に保たれてきた、理解すべきことを示している」
GFB@MC_sashiba
つまり、「緑」が減ったところは確かにあるわけです。その変わり増えた場所もあると。なので、「昔の方が緑があった」は合ってる部分もある。さっきの多摩ニュータウン然り、農地化された場所然り、工業用地になった場所然り。
2022/11/05 21:58:04
GFB@MC_sashiba
この分野でよく参照される太田猛彦氏の『森林飽和 国土の変貌を考える』(NHK出版、2012年)のアマゾンのレビュー、上から2番目の★ふたつのやつ、「都市近郊の緑は減ってるだろ!」って長文でめちゃくちゃ怒ってる人がいる。これも間違ってはいないわけです。それも実際ある。
2022/11/05 22:02:09
GFB@MC_sashiba
実は『森林飽和』でも、参考文献にはないけどちゃんと上記の内容を触れている箇所がある。138ページの2行目からの一段落5行。「森林が農地になり、農地が住宅地に」なったという玉突き上の変化と「『荒廃地』が森林化した」という話をちゃんとしてる。ただあまり強調はされていないと思う。
2022/11/05 22:06:56
GFB@MC_sashiba
ひるがえって、自然環境についてあまり詳しくない一般の人の誤解も、誤解ではない部分が実際にあるわけです。減った緑「も」ある。都市部の緑。同じだけ増えたところ「も」あるけど。
2022/11/05 22:09:18
GFB@MC_sashiba
昨今、森林飽和、森林蓄積の増大の方に話が振れ過ぎているんじゃないかなと思う次第です。わたし自身も過去にそっちに寄りすぎていたきらいがあってちょっと反省しています。その玉突き状に変化して都市、平野部から消えた1割もすごい重要なんですよね。なぜなら
2022/11/05 22:11:09
GFB@MC_sashiba
のちに大きな自然保護団体の会長になる人、植生自然度についてあとから「それは希少度の順番ではない」って言うカヤ場の研究などでも知られる人とか、独自の植樹法で知られ、二度の震災を経て宗教色を強めるけど、早くから二次的自然についても理解を示して人、
2022/11/05 22:13:07
GFB@MC_sashiba
土地利用の研究からはじまってランドスケープエコロジーの観点から二次的自然の価値の体系化をはかってのちに中央環境審議会の会長になる人とか、大御所はたいてい多摩ニュータウンの研究に当時なにがしかの形で関わっていて、
2022/11/05 22:14:39
GFB@MC_sashiba
また、日本列島改造論のときに林地開発許可制度が生まれる経緯、バブル期のゴルフ場やリゾート施設の乱開発から里山保全の機運が高まる経緯なんかも、だいたいがこういう平野部から緩い傾斜地においてだからです。要は今の里山保全の源流だから。
2022/11/05 22:17:21
GFB@MC_sashiba
で、もう一度よく見かけるこのグラフ。これだけ見るとその「玉突き状」の変化って見えないんですよね。このグラフでなにかを論じるのって、ちゃんとしようと思うと存外難しい。例えば、クヌギとかコナラの二次林って「天然林」と「人工林」のどっち… https://t.co/wqQYuHAIOH
2022/11/05 22:21:13
GFB@MC_sashiba
答えはどっちも。H25版を採ったはこれがやりたかった。半分はこの図のすぐ上に書いてある。「この中には、古くから人間が薪炭林や農用林として循環利用することを通じて形成されてきた里山林が含まれている」。一方で、クヌギ造林地は人工林でカ… https://t.co/s2zXPoia2r
2022/11/05 22:27:37
GFB@MC_sashiba
これは林野庁が作ってるからで、林業ベースの発想なのよね。生態学的な植生とか環境史的な資源利用の歴史で考えると混乱する。グラフだけ見て、「人工林の蓄積が急激に増えていて天然林はそれほどでもない」とするのはいいとして、樹種として何が増えてるかはよく考えないと失敗する。
2022/11/05 22:30:23
GFB@MC_sashiba
ダレてきたからもうやめよ。「緑」は面積的には見かけ上はほぼ一定だけど、場所は変わっていて、蓄積は増えている。場所に着目すれば「減った」「昔の方があった」場所もあるし、そこはけっこう重要だよって話です。
2022/11/05 22:32:39
GFB@MC_sashiba
「緑」から拡張して「今の方が自然は豊かか」という話になるとなお難しい。平野部の緑地は実際にもっとたくさんあったし、トキもコウノトリもカワウソもオオカミも絶滅してなかったからね昔は。「昔の方がよかった」も間違ってはいない。
2022/11/05 22:34:31
GFB@MC_sashiba
梅原猛の「森の思想」とか富谷和子の富谷学とか、「森」を強調するナラティブが支配的だったせいもあって、「そうじゃないよ」と指摘するのは重要なんだけど、行き過ぎて細かい条件とかを端折ると、その指摘もまた誤ったナラティブになることがあるから注意したいねってことでなにとぞ。
2022/11/05 22:36:35
GFB@MC_sashiba
かきわすれた。一連の農業景観全体をはじめて「里山」と定義した田端英雄も、バブル期のけいはんな学研都市の開発でオオタカの繁殖地とか湿地がなくなるのを見て、景観全体を保全しないと意味がないと考えたことがきっかけ。やっぱりこの「1割」は重要だろうと。
2022/11/05 22:46:44
GFB@MC_sashiba
もうひとつ忘れてた。もちろん守山弘の名著『自然を守るとはどういうことか』もこの流れといえるし、最初のレッドデータブックの編集と科学朝日の「里山のエレジー」もこういう流れの中から出てきたもの。場所が変わったことで消えたものもたくさんある。
2022/11/05 22:56:25
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